ほぼ1年かけて、アメリカの刑事ドラマ「メンタリスト」(2008年〜2015年)を見ていた。
1シーズン20話以上あって、それが6シーズン+ファイナルシーズンまであるので、本当に息のながーいドラマである。シーズンの途中で女の俳優のお腹が大きくなってきて、当たり前だけど、7年の制作期間はひとりの人生の7年間でもあったんだなあと思った。
ファイナルシーズンの1話まで見たので、数えてみると139話も見ていたことになる。今までこんなに長いドラマを見たことはなかったし、こんなに映像に夢中になったこともなかった。
メンタリストは小事件で1話完結みたいになっていて、それと並行して連続殺人犯〈レッドジョン〉を捕まえる捜査が全話を数珠みたいにつらぬいている。タイトルのメンタリストというのは主人公のパトリック・ジェーンのことで、ジェーンの所属するCBIの捜査チーム5人の活躍や人間関係も大きな見どころになっている。女リーダーのリズボン。元ギャングで鉄仮面のチョウ。恋する大男のリグズビー。赤毛で気の強いヴァンペルト。紅茶好きで犬っぽいジェーン。話を重ねるたびにみんなを好きになっていく。
最もお気に入りの話は、シーズン4の第21話「ルビー色の魔法の靴」で、ゲイと居場所についての話だった。ドラァグクイーンのキャバレーの外で死体が見つかることから話が展開していくのだけど、ドラァグの描き方とリズボンの嬉しそうな反応を通して製作陣がどうゲイを捉えているのか分かるようだったし、アメリカで大ウケしたメンタリストでマイノリティを扱うこと、そしてそれが広く見られたことにとても感動した。わたしはドラァグが好きで、フリフリキラキラした衣装をきた男のひとを見ると意味もなく嬉しいのだ。最後のオーバーザレインボーを歌うシーンは美しくて涙が出た。
メンタリストが生活の一部になった日々を過ごすうち、勝手にわたしの映像ぎらいも克服された。これは思いがけない効果だった。贅沢な悩みだと思われるだろうけれど、わたしは昔から映像鑑賞が苦手で、アニメも映画も心しないと見れなかった。映像作品を見ると感情が揺さぶられすぎて、その余韻が続くのがしんどいし、音や展開が激しいのも精神的に脅威だった。
それがやわらいだのは、メンタリスト100本ノックで映像に慣れたからなのと、年齢の問題だと思う。20代前後は自分の中がつねに戦争状態で、架空の世界の事件を受け入れるキャパシティがなかった。自分が落ちついたら、アニメでも現実でももっと周りのことを見渡せるようになった。
わたしたちはよく年配のひとから「若いうちに本を読んでおけ、映画を見ておけ」というプレッシャーをかけられるけれど、それはウソで、ひとそれぞれにタイミングがあるし、なんなら歳をとってから得られる賢さのうえで理解できる映画というのもあると思う。わたしの映像鑑賞はつい最近はじまったばかりだし、膨大な〈見たい映画リスト〉の前で途方に暮れているひとがいたら安心してほしい。ティーン時代の自分に会えたらそう声をかけてあげたい。
とにかくメンタリストにはお世話になった。ある時期すごく親しくした友だちのような感じを持っている。見ると心の安寧の訪れる映像になったし、英語字幕ができるならもう1回見返したいぐらいだ。(U-NEXTはいまのところ日本語字幕しかない)
とても良くできたミステリなので、これからもたくさんのひとに見られてほしい。