
いま1週間遅れで観ているNHK夜ドラ「ひらやすみ」は自炊系ドラマで、観てないけどTBS「じゃあ、あんたが作ってみろよ」も、食事が出てくる具体的な生活を巡るドラマらしい。食事から生活スタイルを問うドラマが同じ時期にふたつ流れている。
「ひらやすみ」は、フリーターのヒロト(29)が、いとこで美大生のなっちゃんと平屋で暮らす話なんだけど、平屋生活と対照的に描かれるのが、仕事や子育てで多忙を極めし登場人物たちである。マジメに生きているのに生きてる心地のしない彼らに自分の記憶を重ねて涙ぐみながら、タワマン住まいで丁寧な生活でもない、小金持ちで田舎に移住でもない、フリーターで阿佐ヶ谷の平屋(ただしこの平屋は持ち家である(ばあちゃんにもらった))に暮らすヒロトの、ユルいけれど地に足のついた生き方とおいしそうなご飯に癒される。原作はマンガで、こういうマンガがこの世にあることだけでもすばらしいのに、それが売れていて、NHKによって映像になり、岡山天音と森七菜も好演で、観る人からの評判もいいのはよろこばしいことだ。こんなドラマなんぼあってもいい。

いまでこそわたしは、ふつうに自炊して、ふつうに買い物に行き、ふつうにごみ出しなんかして、ふつうにぐっすり眠っているのだけど、それは普通の人生を追っかけることを辞めたところから始まったつい最近の話であって、その前は生活が崩壊してたし、わたし以上に崩壊したひとに囲まれていたから、おかしいなんて感じなかったんだよね。
ぜんぜん食べてない痩せぎすの同い年の女の子は「ご飯のことばかり考えたくない」といっていたし、ちょっと仲良くなった10上のセンパイは「うちの冷蔵庫には牛乳しかない、コーヒーが好きだから」といっていた。(つまりセンパイは、朝はカフェオレを淹れて飲むだけで、昼と夜は現場弁当か外食だったのだ。)
それを聞いたとき、うっすらとした恐怖と共に強いアコガレが胸に湧いてしかたなかったのは、最後には炊飯器すらジャマだと思って捨ててしまったほど、生活が回らなくなった自分を納得するための一番手軽な方法だったからだ。からっぽなのになぜか乱雑な部屋で、わたしはいつも思い描いていた。忙しく、生活にかまってられなくて、ろくろく寝てなくて、食べてなくて、タバコばっかり吸ってストレスを癒す、そんな都市生活の女を。すてきに思い描いていた。
生き物として気持ちよく生活したい、という人間なら当たり前の願いが、そうさせない環境にいると思いつくこともできなくなる。思い描いた暮らしはいまからだって始めることができるはずなのに、途方もなく、雲をつかむように大変なことのように感じる。だから、少し前に流行った「丁寧な生活」ということばとか(大変ウソっぽいことばではあるが)、「ひらやすみ」みたいなドラマは、どれだけあってもいいのだ。
ご飯を炊く。食器を洗う。風呂に入る。洗濯機を回す。買い物へ行く。スーパーの野菜コーナーで、こっちより、こっちの茄子がツヤがあっておいしそうだな、いっぱい入ってるし、とか思う。暮らしってのはやることがいっぱいだ。仕事の時間を圧迫してくる。すばらしいことじゃありませんか。

p.s.ひらやすみに一言。俳優を目指して生活が崩壊したヒロトという役を俳優が演じているのは皮肉なことだけど、やるからにはぜひしっかり休息とご飯を取れる現場であってほしい。これから俳優を目指すひとが、犠牲や消耗などから遠い場所で、前向きにがんばれますように。