
御岳山にハイキングにいった。話したいことがたくさんあったから、口をモソモソ動かしながら登っていった。

周りの景色が緑色になってきて、空気は冷たく、足元は柔らかく、ミソサザイのさえずりが響いてきて、遠くから湧き水の匂いがしてくると、人間界のことを話す気持ちがなくなった。話しても、話したそばからその愚痴はどうでもいいことに変化した。中間地点の広場でケータイを開くと電波があって、新しいメッセージと仕事の連絡が入っていたけど、遠い国の話みたいに現実味がなかった。緑の空間は広く、奥行きがあって、苔と樹皮のいい匂いがして、道にはやまぶきが咲いていた。


登ってくるとき途中までケーブルカーに乗ったけれど、帰りは歩いて下山することにした。コンクリートの下り坂が、蛇行しながらどこまでもどこまでも続いていた。ガイドによれば30分で下山できるはずなのに、30分経っても1時間経っても終わりが見えない。だんだん膝とお尻のエクボがガクガクしてきた。止まって休みたいのに足の回転を止められない。つんのめる身体を支える膝のことだけが心配だ。ふと友達が視界から消えて、振り返ると坂道の真ん中で立ち止まっていた。かかとに全体重をかけて、下り坂に逆らっている姿は、壁にななめに打った画鋲みたいだった。それが本当におかしくて、笑い出したらしゃっくりみたいに止まらなくなった。右足と左足を交互に差し出すように歩いていたら、1時間半後にバス停に着いた。
