63歳のコレットがかつての下積みの時代……20歳で結婚し33歳で離婚するまでの13年の時間を再訪する。修行時代、コレットに言わせればそれは「自分は自分でしかなく、つまり心優しいひとりの若い女でしかなくて、匿名の仕事にも、服従の生活にも誇りを持てずにいることに心中ひそかに悩んでいた時代」。コレットの言葉はテレビの副音声のようだ。怖かったパリ、肉の代わりに食べる砂糖菓子、ガス燈の青さ、クロディーヌの執筆とアトリエ、あの舞台女優の純真さ……。修行時代のさなかに修行時代について書けはしない。これは彼女のノスタルジーではなく、彼女の記憶から届いた手紙。
私は鍛えあげた神経を傾けて音楽を聞いた。私の音楽的記憶はひどく鮮明で、そのざわめき、メロディ、(音の)包囲から容易に解放されなかった。床に入っても、通りのガス燈の青ざめて翼の生えた影が天井にちらちらするのを眺めながら、心の奥底で歌い、足の指や顎の筋肉でリズムを取っていたものだ。