遠浅

平野明

2024-01-01から1年間の記事一覧

正解

ちくま文学の森シリーズを読んでいる。世界中の古典文学や紀行文、戯曲などをテーマ別に集めたアンソロジーで、全部で15巻ある。選者をしているのは、鶴見俊輔・安野光雅・森毅・井上ひさし・池内紀の5人。評論家もいれば翻訳者も画家も数学者も劇作家もい…

狩猟バイト日記2020

23歳のとき、職探しの一環で狩猟のアルバイトをしたことがあった。結局、生態系維持のために動物を殺せるほど自分は動物を好きではないことを思い知って、仕事にすることはなかった。わたしはかわいいといって動物を撫でることしかできなかった。この1週間は…

マザータング

(夜のヤモリズ 撮影:ぱんだちゃん) パワーサラダという食べものがある。ちぎった菜っぱに焼いた鶏肉やゆで卵などを混ぜた、その一皿でたんぱく質も炭水化物も取れるボリュームのあるサラダボウルのことだ。アボカドはもちろん、ゆでた豆もカマンベールチ…

本の市「はなかり市」

2024年11月9日(土)、日本基督教団青森松原教会にて、第3回本の市「はなかり市」を開催いたします。 hanakariichi.hatenablog.com なんだかいい匂いのする企画です。青森にお住まいのひとはぜひ。

アサコという自然

映画「寝ても覚めても」は柴崎友香による同名小説を濱口竜介が監督した作品。主演は唐田えりか、東出昌大。「AsakoⅠ&Ⅱ」の英題で第71回カンヌ国際映画祭に出品された。 2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS 見た。見たあとひとの感想…

やさしいレナ

富岡多恵子訳のガートルード・スタイン「三人の女」に収録された3つ目の短編「やさしいレナ」がいい。 主人公のレナは我慢強く、やさしくて気立てのいいドイツ娘だった。他の女中たちも、単純でやさしいレナのことが好きだった。そのうちの2、3人はいっし…

コトバという自然

若いころモダンダンスの修行のためにヨーロッパへ渡り移住したダンサーが、いまはコンテンポラリーダンスをしているというので、コンテンポラリーダンスってどんなですか、と聞いたことがあった。そのひとは、自分からなにかをしようとしないことかな、テー…

ピナ・バウシュと20世紀のダンサー

「わたしは物のそばにいたい」Pina Bausch www.youtube.com

素直さ

言ってしまった後悔は無口な人のもの、言わなかった後悔はおしゃべりな人のものだと思う。

記録2024②

夢日記

現実と現実がごっちゃになったわたしの夢日記。inspired by「夢日記」島尾敏雄

「恋愛小説のレトリック『ボヴァリー夫人』を読む」を読む②

こちらではもっとボヴァリー夫人のテクストに踏み込んで「フローベールすごいな、おもしろいなー」という感動を大事にまとめてみる。

「恋愛小説のレトリック『ボヴァリー夫人』を読む」を読む①

本屋に行ってみよう。小説の棚から一冊手に取ると、表紙にはタイトルと作者名が並んでいる。開けば物語の一行目を見ることができる。なぜってそれは「小説」だから。いま、小説と呼ばれるものは全て近代小説だ。でも、近代という時代が勝手に作ってくれたわ…

李良枝

「何を書き、どう表現するか」ではなく「書く私とは何か」の問いからしか書かなかった小説家がいる。名前は李良枝(イ・ヤンジ)。1955年山梨県に生まれ、韓国人の両親を持つ。 彼女の作品では同じ設定が繰り返し使われる。たとえば、ソウル大学に留学した在…

5月

彼女はシェリを見おろしながら自信に満ちて微笑んでいたが、その顔にはなにか特別なもの、かすかな痙攣か快い苦痛のようなものがとどまっており、その微笑はさんざん泣いたあとの微笑にどこか似ているということには、自分でも気がついていなかった。(シェ…

ボヴァリー夫人/フローベール

フローベルのボヴァリー夫人おもしろい!むさぼり読んだ!前置きがやや長いが、下巻からはもう止まらない。夫人と若い愛人との悲喜こもごも? という予想は外れ、物語はより過酷な方へ。最後まで読んだいま、2人がヨンヴィルへ越したのが悲劇の始まりだった…

4月

はじめてパーマをかけた。念願のソバージュでうれしい。この1年で、針金ストレートから素朴上等へシュミが変わったな(髪の毛もなにもかも)。 引続き、月10冊の読書を自分に課してる。月の終盤、ちょっとがんばらないといけなくなってくるんだけど、読み切…

撮影日1968年

(これは京都のあるクラブで) 1967年にジャン・ジュネが日本に来ていたことは知っていた。恋人(ベンダガ)が自殺し、深い抑鬱状態だったジュネに、日本への旅路を勧めたのはヒサコだった。ジュネを乗せた飛行機は、同年12月22日にフランクフルトを出発する…

わたしのフェミニズム・ノート

ジュリアン・バーンズの紹介でアニータ・ブルックナーを知り、彼女の紹介でコレットを知り、そのまた紹介でボーヴォワールに流れ着いた。フェミニズム、もっと勉強したい。ボーヴォワールの「第二の性」の合間に「上野先生、フェミニズムについてゼロから教…

3月

生まれて初めて私は、塩や海藻や、波が引いたあとの湿って匂いを放つ砂地、ぬれてきらめく魚を楽しみ、手で触れた。海辺の気候が、私のなかの、長い苦しみの思い出と、考える習慣を眠り込ませ、緩慢にしていた。(私の修業時代/コレット)

親指Pの修行時代/松浦理英子

“無邪気で平凡な女子大生、一実。眠りから目覚めると彼女の右足の親指はペニスになっていた。”(河出書房HPより) 30年前の松浦理英子のベストセラーである。1995年の読者は何を思っただろう。ちょうど戦後50年、インターネットも未発達で、わたしはまだ生ま…

私の修行時代/コレット/佐藤実枝訳

63歳のコレットがかつての下積みの時代……20歳で結婚し33歳で離婚するまでの13年の時間を再訪する。修行時代、コレットに言わせればそれは「自分は自分でしかなく、つまり心優しいひとりの若い女でしかなくて、匿名の仕事にも、服従の生活にも誇りを持てずに…

モロッコ流謫/四方田犬彦

文章にジュネを探してしまうけど、モロッコに縁のある作家をばーっと読めてかなりおもしろかった。ポール・ボウルズのパートナー、ジェイン・ボウルズが破天荒な女すぎていい。読みながら何冊か本を買ったり借りたりした。文章上手。いい読書ができた。 エル…

一神教と聖典

三大一神教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)につながりが見えるとおもしろい。わかる範囲でまとめてみる。 ○3つの聖典三大一神教にはそれぞれ聖典がある。聖典とは、神による「啓示」が書かれているもので、旧約聖書→新約聖書→クルアーンの順番で成立…

女という生きもの

どうして生理の話は恥ずかしいのだろう? ドラッグストアでは紙袋を用意してくれるし、実家では生理や性の話はタブーだった。「生理バレ」に怯え、生理用品のハート柄にふるえ、このテーマの扱いの難しさ(不器用に寄り添ったり突き放したりする関係)は、す…

2月

これ、ぱーちゃんが編んでくれた巾着なんだけど上手じゃない? 突然はじまる編み物教室。わたしは紐通すところでギブアップして、編みかけの巾着は本棚に差してしまいました。ということで2月は編み物。(ウソでも一度は編んだもん。) 街灯にとまってたり、…

中東戦争を読む

4回の中東戦争とレバノン内戦をまとめたい。 ○1948年 第一次中東戦争(別名:パレスチナ戦争。イスラエルでは「独立運動」。アラブ側では「ナクバ(=大災害)」)・交戦国イスラエルとアラブ諸国(エジプト・シリア・イラク・レバノン・ヨルダン)・きっか…

作品はだれのもの

人と作品を作るのが大変なのは、作品の主体がいつも観客にあるからだ。作品は演出家のものでも俳優のものでもない。観客のものだ。だから観客の目を持った演出には人間味がない。自分の目ですら捨て、人間ではないものに全身でなっている。俳優の都合を考え…

感情教育/中山可穂

女2人の前史を語る文章の低体温さが好きだ。恋に落ちてからは、文章が熱さにふるえて溶けていきそうだった。小説の内容とは文章が示すものなのに、読みすすめるうちに内容が文章を造形しはじめる。床に打ちつけられたスーパーボールはいつまでだって見てい…

seven jewish children/Caryl Churchillを読む

キャリル・チャーチルの「ユダヤの7人の子どもたち」の戯曲は、2008年から2009年にかけてイスラエル軍がガザ地区を攻撃したことを受けて書かれた。この舞台に7人の子どもたちは登場しない。ユダヤ人の大人たちが、子どもに何を言うべきか/言わないべきか…