遠浅

平野明

バス

あなたは二日酔いのまま、島でひとつしかない婦人科を探してバスに乗った。病院で高い薬を出してもらって水と一緒に飲んだ。毒だと思ったらあなたは少し安心した。何かのきっかけで女医さんに話し始めたら止まらなくて、心臓がバクバクして椅子から落っこちてしまうかと思った。イヤなのに、あなたは声をあげて泣いていた。いますぐ消えてしまいたかった。

病院に向かうバスの揺れを忘れない。忘れないというかそれはすでにあなたの一部だ。ここには後ろから二番目の席に座るあなたしかいなくて、雨で汚れた窓越しに光る昼間を見ていた。天気が良かった。あなたは世界から隠れて左手の脈をはかった。まだ生きている。あなたは自分を抱きしめた。バスの揺れがさみしくて、震えながら壊れてしまいそうだったから。

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