遠浅

平野明

序幕

新型コロナウイルスで無一文になったあたしは(ぶうたら言いながら)地元、青森に帰ってきた。「都会で暮らしてた人間が田舎の自然に芯から癒される図」にも飽きた頃、タウンワークに行って仕事を探すことにした。と言っても来年はトウキョーに戻る。友人も恋人も劇場も向こうにあるから、私の目は受付のおばさんが差し出した呼び出し番号48の紙を見ているようで見ていなくて、紙の向こうに来年を、さまざまな声で再生される「おかえり」を映し出していた。いつか地元で過ごした2020年を思い出す時、何も思い出せなくても全然良くて、むしろ通過点のような一年を正しく通過点にさせるために、印象に残らないようなアルバイトを探していた。コンビニの店員でも駅の清掃でも、かけがえのない20代の一年を無下にしてくれそうな仕事ならなんでもよかった。今あたしは、繰っても繰っても時給790円のアルバイト募集のページを焦点合わない目で辿って、とりあえずのこの一年を、一緒に暇つぶしてくれるためだけの仕事を探しています。